interview
長野県北信で作られるVoigtlander
硝材の加工から完成まで全て工程を自社工場で行うコシナ。
『NOKTON Classic 35mm F1.4 MC VM "MapCamera 25th Edition"』も他のフォクトレンダー
製品と同じく北信地域の工場で作られます。
NOKTON Classic 開発インタビュー
レンジファインダー機だけでなく、近年はマウントアダプターを使用してミラーレス機でもVMマウントレンズを楽しむ方が増えました。
その中でもF1.4の大口径広角レンズながら手が出しやすい価格で楽しめる『NOKTON Classic 35mm F1.4』は人気の1本です。今回はオリジナルレンズの発売を機に登場から11年目を迎えた『NOKTON Classic 35mm F1.4』の誕生秘話を聞くべく当時開発を担当した株式会社コシナ・佐藤氏にインタビューをおこないました。名レンズがいかにして生まれたのか、ぜひご覧ください。
名称にあるClassicの意味とは?
佐藤氏:
レンズの悪とされている収差の中で球面収差をあえて残して、解像感よりも描写性を重視したものClassicと呼んでいます。
レンズを製作する上で解像感を高めて立体感を出す考えと、レンズに良い意味での癖をつけてあげることで被写体に立体感が出てくる2つの考え方があると思います。NOKTON Classicはあえて球面収差による癖をつけ、立体感を演出するレンズにしました。
近年だと解像力を重視したレンズ作りが業界の主流だと思うのですが、あえて癖のあるレンズを作ろうと思ったのはなぜだったのでしょうか?
佐藤氏:
NOKTON Classic 40mmを含めると2006年くらいから設計がスタートしたのですが、当時はまだミラーレス機が無い時代で、ライカ、ツァイスイコン、ベッサなどのレンジファインダー機の使用を想定して開発を進めました。
レンジファインダー用レンズを作る上で求められるのは大きさです。コンパクトな設計で作らなければなりませんし、当時のトレンドとして大口径レンズであることが求められました。
その2つを両立させたレンズを実現しようとこの企画(NOKTON Classic)はスタートしています。
35mm F1.4のレンジファインダー用レンズといえばライカのズミルックスを想像する方も多いと思うのですが、そこは意識はされたのでしょうか?
佐藤氏:
やはり同じマウントで同じスペックですから、そこは意識せざるを得ない存在です。
今とても価値が高騰しているレンズですが、当時も高価なレンズでした。
使いたい方全員が使えるレンズではなかったので、そこに向けて何か訴求できるレンズが作れないかなと。
ある程度ズミルックスの描写や性能を研究した上で、じゃあウチならどのようなレンズにしようかと設計側と話し合い、あえて収差を残すのはどうかということになったのです。
レンズの性能を考えると収差の中でも球面収差が大きく出ているとソフトフォーカスレンズの柔らかい写りになります。そのような特徴を意図的に出すことで何か描写に違いが出るのでは無いかなと考えました。
コマ収差や色収差など色々な収差がある中、描写の美しさに寄与するのは球面収差だということにたどり着きました。それで、あえて球面収差を残して、コンパクトで艶感のある描写のレンズを作りたいとClassicシリーズの開発が始まりました。
ミラーレス機でも楽しめる
NOKTON Classic 35mm F1.4
偶然かもしれませんが、35mmが2008年に登場し、翌年2009年にミラーレス機が発売されました。たまたま時期が重なっただけかと思いますが、マウントアダプターでの使用も注目されたレンズだったと記憶しています。
佐藤氏:
当初は全く考えていませんでしたが、実際にミラーレス機が登場し、Mマウント用アダプターも発売されて、社内でも各レンズの検証を行いました。
やはりフィルムとセンサーの特性上の違いはありますので、レンズによってはフィルムで使用した時と若干の描写の違いは出てきます。
しかし、35mm F1.4は寛容度が高いレンズで、他のレンズに比べるとそれほど敏感に違いの出ない特徴がありました。そういった意味で結果的にミラーレス機にも向いているレンズだと言えます。
マルチコートとシングルコートの
2種類を採用した意図とは?
佐藤氏:
レンズの企画の段階から味のある描写性とかを目指していましたから、現行レンズとは違った描写をするという事でネーミングにClassicをつけました。じゃあ、Classicという名前をつけるなら、とことんClassicにしてやろうという事になったのです。
そこで出来る事はなんだろうと考えた時、コーティングをマルチコートが登場する前の物に変えてみてはどうかという事になりました。他メーカーではやっていない事でしたので、先に40mmでシングルコートを発売したのです。
当初は我々もあまり期待をしていなかったのですが、販売してみると全く反応が無い訳ではない事実に気付かされました。少数ではありますが、あえてSCを選ばれる愛好家の方もいると。それなら同じClassicの名を持つ35mmでもやってみようという事になりました。すると40mmと同じような比率でシングルコートを支持する方がいらっしゃる。新規開拓ではありませんが、新しいユーザーの需要が見えた結果になりました。
この35mm F1.4はレンズ設計をしている側から言うと、現代のレンズ作りと目指す方向が逆なのです。収差を抑えなくてはならないのに、あえて収差を出す。コーティングで内面反射やフレアを抑えなくてはいけないのにフレアを出す。
後日談なのですが、当時レンズ設計を担当した者は「この設計で画になるのか?」と結構悩んでいました。
それで実際に試作が出来上がって撮ってみたら、想像以上に写る。設計担当も「こんなに写るとは」と驚いていました。現代のレンズ設計のやり方だと数値以外の曖昧なニュアンスや味というのは決めにくいのですが、この味わい深い描写を実現できたのは本当に良かったなと思っています。
I型とII型の共通点と、違いについて
佐藤氏:
まずI型とII型の共通している部分は描写です。先に話した球面収差は同じ量を発生させて作っていますので、おそらく写真を見比べてもわからないレベルだと思います。
大きさも同じ、写りも同じ。ではII型は何が変わったのかと言うと、対称型レンズで起こりやすい像面のうねりを少し抑え、絞りを変えた時に起きる微妙なピント移動を抑えるように調整してあります。
それにより、ミラーレス機のライブビュー使用時により使いやすくなりました。
ではI型はII型に劣っているのかというと、そのような事はございません。
I型は、距離計連動するレンジファインダー機での使用を前提に考えて設計されています。カムの精度やセッティングがカメラにぴったり合うように作られていますので、レンジファインダー機での使用ならI型もII型も大きな違いは感じないと思います。
NOKTON Classicを検討されている皆様に
佐藤氏:
35mm、40mm共に球面収差をあえて残した、現代では珍しい設計のレンズです。他のレンズとの描写の違いはもちろん、絞りによる写りの違いを楽しんでいただけたらと思います。
このレンズは開放付近は少し柔らかくて立体感のある描写を目指していて、絞ればキリッとした解像感の写りになる二面性を楽しめるレンズです。絞り値はただ明るさとボケ味をコントロールするものだけではなくて、描写そのものをコントロールする物であるという事を活かした作品作りをしていただけたら嬉しく思います。