アルティザン・アンド・アーティスト
代表取締役社長
Enrico Domhardt(エンリコ ドムハート)氏
自慢の愛機をもっと個性的に持ちたい
A&A*の代表的な商品であるシルクストラップですが、発売を開始したのは10年以上前だと伺っています。今もそうですが、特に当時としてはとてもユニークな製品だったと思います。どのような理由、発想でシルクストラップを開発・販売するに至ったのでしょうか?
ドムハート氏:
シルクストラップはA&A*の製品の中でも、長い歴史があるアイテムの一つです。当然、着想したのもかなり昔になるのですが、当時はカメラの販売台数やユーザー数が今よりもはるかに多く、業界に勢いがありました。そんなユーザーの中に、“自慢の愛機をもっと個性的に持ちたい”(スタイルにこだわりたい)と言う要望を持つ人たちがいる事に気付いたのです。そこでA&A*が大切にしている価値観である、“機能的で美しく”、伝統的でクラフトマンシップにこだわったカメラアクセサリーの開発を目指しました。試行錯誤していくうちに出会ったのが、日本の伝統的な素材である“シルク”であり、長い歴史を持つ、京都で伝統的に作られてきた帯紐とその製法の“組紐”です。
当時は多くのカメラユーザーが既製品のストラップを使用している中、A&A*のシルクストラップを使用している人はとても個性的に写りました。また、多くのライカユーザーから支持をしていただいたこともあって、ある意味で、憧れを感じていただけたのではないかと思っています。
シルクストラップにも多くのシリーズがありますが、それぞれにコンセプトなど違いはありますでしょうか?
ドムハート氏:
はい、たくさんの種類があり、もちろんそれぞれのシリーズに個別の魅力があります。まず、ACAM-301Nと306Nは、単色のカラーバリエーション(ブラック、レッド、ネイビー、カーキ、シルバーは301Nのみ)を揃えたシリーズですが、これらはリングタイプ(カメラとの接合部)のみ展開しています。これに対して、テープタイプが必要なカメラには、ブラックとレッドの2色展開ですが、307Nシリーズがあります。
これらは全てラウンドシェープのストラップですが、フラットタイプのシルクストップ、ACAM-310N、ACAM-312Nも展開しています。これはユーザーから、少し違った形のストラップが欲しいとの要望があった為、開発するに至りました。
中でもACAM-312Nは新しく開発した製品で、組紐のグラデーション技法を採用した、より個性的で魅力的なアイテムです。3つのカラーバリエーション(ブラック X レッド、ブラック X シルバー、ネイビー X シルバー)で展開していますが、各モデルに5色の異なった色のシルク紐を使用して組んでグラデーションを表現しています。どれもディテールの美しさにこだわった完成度の高いストラップです。このほかにも、ハンドストラップを好むユーザーも多く(主にミラーレスやコンパクトカメラ用として)、そういった要望に応えたハンドストラップも準備しています。
そして、クラフトマンシップの技術の高さが際立つ、最新作のラウンドタイプのグラデーションストラップ、ACAM-316Gがあります。(リングタイプのみ展開)
より個性的な商品作りに挑戦
シルクストラップの魅力、ユーザーにとってのアドバンテージは何でしょうか?
ドムハート氏:
魅力と言えば、やはり素材の面白さと実用性だと考えています。ご存知の通り、シルクの柔らかさ、滑らかさは繊維素材のなかでは格別です。肌に触れるたび(首にカメラを掛けるたび)に上質感と心地よさを感じていただけるでしょう。
また、着物の帯紐の技術である伝統的な組紐の技法で丁寧に組み込まれたストラップには伸縮性があり、首にカメラを掛けた際のショックを若干ですが緩和してくれます。この少しの違いは、長時間カメラを持ち運んだ際には大きな違いになるでしょう。
冒頭の回答で少し触れましたが、今でも多くのユーザーはカメラに同梱されている、メーカー製の化繊のストラップを使用しています。画一的でつまらなく、個性的ではありませんよね。A&A*のシルクストラップは個性的で、ユーザーの価値観や審美眼を反映させることができる趣向性が高いアイテムです。それに、日本の伝統的な素材と技術で作られている点でのストーリー性も重要な魅力ですね。
新作のACAM-316G・グラデーションストラップの開発にはどのような経緯がありましたでしょうか?
ドムハート氏:
A&A*は常に伝統的なクラフトマンシップや美しさにこだわって製品づくりをしてきましたが、これらの価値をもっとわかりやすく表現し、より多くのユーザーに享受してもらいたいとの強い思いがありました。そこで他のブランドには真似のできない、より個性的な商品作りに挑戦したのです。具体的にはストラップの途中で徐々に色が切り替わる、グラデーションストラップの商品化を目指しました。グラデーションの繊細な表現や技術・練度の高さを楽しめる、ユーザーにとって最適なデザインで、大量生産される製品ではこの面白さを表現できないと思っています。
実現にはどのような技術を用いたのでしょうか?開発するにあたり苦労したところがあればお教えください。
ドムハート氏:
開発には実験的な取り組みが多く、実に色んな技術を試しました。うまくいかない事も多く、開発にはかなり長い年月が必要でしたね。特にストラップの両端のカラーの長さとグラデーション部位の長さをシンメトリックにすることは難しく、職人さんと共にかなりの試行錯誤を繰り返しました。職人さんには相当な無理をお願いしましたよ。また、他に困難だった点の一つは、グラデーション部分を美しく、違和感なく徐々に色を切り替えること。熟練した職人でも難しく、当初は成功しても生産可能な本数が極めて少なかったのです。もちろん、大量生産する製品ではありませんが、海外にも多くのユーザーを持っていますので、数百本は生産できないと商品として発売することは出来ません。最終的な解決策として、従来のストラップの組紐の技法は諦め、“平丸唐組”という技法を開発しました。これは伝統的な技法で繊細な表現ができる“平唐組”をベースに改良したものです。この新しい技法の詳細は明かせない部分が多いので、この程度しかお話できませんが、この技法が完成したことで、グラデーションの表現力に加えて強度も大きく改善できました。
さらに染色の工程でも高い技術を求める必要がありました。一本一本のシルク糸にどのくらいの長さで異なる色を染色していくのか、そしてそれらが常に同等の長さである必要もあります。例えば、このブラックの部位の長さに個体差が大きくては困りますし、シルバーとのグラデーションの度合いや長さも制御しなくてはなりません。このグラデーション部位のぼかし度合いは、職人さんの熟練した感覚にしか頼ることができません。そのような信頼できる高い技術を持った職人は限られているのです。
卓越した知恵と技術を持った職人によって作り上げられる「平唐ぼかし紐ストラップ(ACAM-316)」の製造工程。
今後のシルクストラップシリーズ開発の展望
既に様々なシルクストラップの製品を出されていますが、次に製品化を考えているシルクストラップはありますでしょうか?
ドムハート氏:
はい、もちろんです。魅力的で個性的な商品を開発するために、企画チームとインハウスのデザイナーが日々試行錯誤をしています。中でもシルクストラップはフラッグシップシリーズですので、最優先事項です。残念ながら発売前の新商品情報は機密事項ですので、詳細に関してお伝えできないことをご容赦ください。ただ、来年には全く新しいシルクストラップのシリーズを発表することができると思います。
シルクストラップをどのようなカメラユーザーに使用して欲しいとお考えでしょうか?
必ずしもユーザーを絞る必要があるとは考えていませんが、やはり、人とは異なった個性的なものをお探しの方には価値を見出していただけるのではと考えています。その素材や製造方法のユニークさからも、カメラをパーソナライズするのに、A&A*のストラップは最適だと思います。ほかにも、最近は若い人の中でも、伝統的な技法や天然素材などに高い価値を見出す人たちも増えています。是非、そういった人達にもシルクストラップに触れていただきたいですね。本当に手に触れるだけで、違いが分かりますから。
既にシルクストラップを使っている方、購入を検討されている方へのメッセージをお願い致します。
最初に、全てのユーザーの方へA&A*のシルクストラップをご支持いただきありがとうございます。
このストラップの美しさや機能性の高さ、そしてA&A*のクラフトマンシップへのこだわりに対して、我々と同じように価値を見出していただいている事は本当にうれしく感じています。皆様のサポートなくして、ここまでの大きな成功はありえませんでした。
これからも、より魅力的で面白い製品の開発に努めて参りますので、今後も是非ご期待ください。